うつ病・診断編|代表的な病気

データ

日本国内の統計によると、一生のうちに人がうつ病にかかる率は6.5%〜7.5%といわれます。アメリカでは16%です。この患者数の差は、日本での受診率の低さと関係があると考えられます。
うつ病を発病しても、1年以内に病院(精神科、一般身体科をふくめ)を受診するのは20%前後にとどまります(アメリカでは60%前後)。「ストレスのせい」「心理的な問題」と見られ、「うつ病」という認識をもてないためと思われます。
うつ病の患者さんがプライマリーケア医を初診する時の窓口は、内科が64%、婦人科が10%で、精神科(6%)、心療内科(4%)を凌駕します。そして初診医を受診した時に、うつ病・うつ状態と診断・説明されたのはわずか11%にすぎないのです。
)JCPTD:Japan Committee for Prevention and Treatment of Depression:「一般診療科におけるうつ病の予防と治療のための委員会」
以上は平成14年のデータです。最近は、テレビ、雑誌を通じてうつ病の知識が共有され、精神科、心療内科への敷居は低くなってきたようです。比較的軽症の方が、自ら「うつ病ではないか?」と受診するケースも増えてきたと言われています。それに伴い、型通りの治療で対応困難な場合が増大しつつある、という新たな問題が浮上してきました。早期に的確な診断を行わなければならない上に、多様なうつ病に対応できる臨床力が求められる時代です。

診断基準

うつ病が進行すると、下記の症状が組み合わさって見られます。
  • ほとんど1日、憂うつで沈んだ気分である
  • 仕事や趣味に興味、喜びを感じられない
  • 食欲低下、体重減少
  • 不眠(まれに過眠)、朝早く目がさめる
  • 活動性が落ちるか、あるいは落ち着かずイライラがひどい
  • 疲れやすい、だるい、無気力である
  • 「皆に迷惑ばかりかけている」とか「自分は無価値だ」という思いにとらわれる
  • 集中力、思考能力の低下、仕事の効率が落ちた
  • 将来を悲観し、「死にたい」と考える
アメリカ精神医学会の診断基準(DSM)では、1または2のどちらかがあり、それを含めて5項目以上が、2週間以上、ほぼ毎日続く場合に「うつ病」と診断します。
しかしこのような症状が揃ってしまう前、早い段階で受診していただくことが大事です。
初期には、イライラが強まり過量飲酒に走ったり、疲労倦怠感、微熱、頭痛、慢性的な肩こり、胃腸障害、動悸や息苦しさ,性欲低下などの身体症状を感じることが多く、顕著な気分の異常を自覚するまでに至りません。そのため単なる「体調不良」としてとらえられ、内科、婦人科などを受診することが多いのです。

うつ病とは?

一言でいえば、心的エネルギーレベルの低下、喩えると、水位が下がり「発電できなくなったダム」のような状態です。心と体の動きのスピードが落ちてきます。ここで無理をすると、更に「水位が低下」してしまいます。

その成因として、(1)体質(2)環境ストレス(3)性格要因 が絡みあって作用すると考えられています。

(1)脳内の神経伝達物質の代謝バランスが崩れやすい人(体質)に、
(2)強度のストレスが加わり、脳のリズムに変調がおこります。
(3)さらに、ある種の性格傾向が、ストレスからの影響を長期化させ強めてしまうと、うつ病が始まるのです。几帳面で、完璧にしないと気がすまない性格、あるいは、容易に傷ついてしまう自己愛的な性格、等が注目されています。
私の印象では、性格的な偏りとは別に、状況的に、割り切れないものを内心かかえ、「嫌だ、嫌だ」と思いながら仕事をせざるをえない場合、エネルギー消耗が倍増するようです。ここでの「嫌…」は、仕事自体のストレスよりは、周囲への「気遣い」の方が大きいのです。

「うつ」の4つのタイプ

誰でもかかる病気であり、治りやすい、という点で、うつ病は「こころの風邪」と言われてきました。しかし最近、「治らないうつ(=難治性うつ病)」が注目されています。治療に十分反応せず、6〜12ヶ月にわたって遷延する例がうつ病全体の10〜15%にのぼると言われています(JCPTD)。
上にあげたDSMのような診断のやり方は、「うつ」を引き起こす要因を無視し、いろいろなタイプの「うつ状態」を混同してしまいます。これが「難治性うつ」を生み出す理由の1つと思われます。

「うつ」の成因と関連させて、下の4つのタイプに整理する精神科医が最近ふえています。
  • メランコリー型
    従来型の、いわゆる「うつ病」らしい「うつ」です。真面目で几帳面な性格の人に多く、仕事を抱え込み、自分で何もかもやろうとして、潰れてしまうタイプです。
    自責感が強く、重症化しやすいのですが、逆に、ちゃんと薬をのみ、安静をたもつと、治療に反応しやすいのが特徴です。
  • 双極性感情障害Ⅱ型
    躁うつ病の軽症型(双極性感情障害Ⅱ型)では、気分の高揚、興奮状態と抑うつ状態を繰り返します。躁状態が軽くて短期におわると、それを病的と感じず見過ごすため、本人も家族も、「うつ病」と思ってしまいます。
    医師は、慎重な問診と経過の観察により診断を確定し、抗うつ薬ではなく、気分調整薬を中心に処方し、治療を組み立ててゆく必要があります。鑑別診断がとても大事な所以です。
  • 気分変調症
    比較的軽いうつ状態が慢性的に、2年以上つづくタイプです。「悩みやすい」性格傾向のある方に見られ、いわゆる「神経症的」なタイプのうつです。
    抗うつ薬など薬物療法の効果だけでは限界があり、環境調整、カウンセリングなどを組み合わせて治療をすすめる必要があります。医師の「腕」が問われるところです。
  • 非定型うつ病
    過食、過眠、鉛のような体の重さ、等の症状を伴うことが多く、対人関係を拒絶されることへの過敏性があります。仕事は回避するが、余暇は楽しく過ごせるなど、誤解されやすいタイプです。軽症例が多いのは、気分変調症と同様です。
    「精神的な成熟度が低く、規範や秩序、他者への配慮に乏しい」と見られ、このせいで本人の意に反して、周囲との葛藤、衝突をおこしてしまいます。この部分にどう働きかけるかが、うつ状態からの回復に重要なポイントとなります。
上のタイプをざっと見ただけでも、画一的な治療では役に立たないのは、分かっていただけたと思います。正確な精神医学的診断に加え、患者さんの性格的な「クセ」、本人の置かれた家族的、社会的背景を評価しつつ、治療を進めないと「治らない」のです。